米ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J)傘下の医薬品製造会社で、欧州に拠点を持つヤンセン・シラグとオーソ・バイオテック(注:ヤンセン・シラグの生物学的製剤部門)の二社は、このほどベルギー、オランダ、フランスの欧州三カ国において栄えある2004年度『プリ・ガリアン賞(Prix Galien prizes)』を受賞しました。これは、多発性骨髄腫に対する新たな薬物治療の道を拓くとともに、同疾患の治療に革新をもたらしたとされる薬剤、ボルテゾミブ注(海外製品名:ベルケード®)への高い評価によるものです。
プリ・ガリアン賞は、先進的かつ卓越した医薬品の研究開発を促すことを目的に1970年にフランスで創立された権威ある賞で、医薬品産業で研究に携わるものにとって、その受賞は最高の栄誉であるともいわれています。以来、プリ・ガリアン賞の理念は欧州各地へと広がり、今日では欧州主要国にカナダを加えた10カ国以上で同賞の選考が行なわれております。いずれも患者さんに優れた治療効果をもたらすと認められた画期的な薬剤が表彰の対象となりますが、これまで複数の国で同時に同賞を受賞した化合物はごくわずかであり、今回、ボルテゾミブはその栄えある化合物の1つに名を連ねたことになります。
ボルテゾミブについて、本年度の同賞審査委員会は、「極めて革新的かつ独創的な製品であり、多発性骨髄腫の治療にとって願ってもない朗報である」と称賛のコメントを寄せています。
ボルテゾミブはここ10年間では多発性骨髄腫患者向けとしてはじめて認可された治療薬で、プロテアソーム酵素複合体をターゲットとし、2004年度ノーベル化学賞を受賞した科学的発見の成果を活用した最初の抗がん剤でもあります。
ボルテゾミブは再発性または難治性の多発性骨髄腫患者にとっての画期的ながん治療薬として極めて高い評価を受けており、臨床試験では、以前に別の2種類以上の治療法では十分な治療効果が得られなかった患者において、疾患の進行を遅延、あるいは停止させることが認められています。欧州においてボルテゾミブは、少なくとも1回以上の治療歴を有し、骨髄移植をすでに受けた進行性の多発性骨髄腫患者、または骨髄移植に不適な同疾患患者の治療に対する単剤療法として位置づけられています。
また、ボルテゾミブはJ&J傘下の医薬品研究開発企業ジョンソン・エンド・ジョンソン・ファーマスーティカル・リサーチ・エンド・ディベロップメント(J&JPRD)社と米ミレニアム・ファーマスーティカルズ社が共同開発した薬剤であり、その潜在効力は再発患者または他の治療法に反応しなかった患者を対象とした初期の臨床試験でも明らかです。
第二相試験の結果、患者に多大な治療効果が認められたため、まずは米FDAが加速承認を許可し、2003年5月にボルテゾミブの発売が実現しました。またEUでは2004年4月に、以前に少なくとも2種類以上の治療を受けたことのある多発性骨髄腫患者の治療に対して初めて承認されています。
その後、1~3種類の前治療歴を有する多発性骨髄腫患者を対象としたAPEX試験(Assessment of Proteasome Inhibition on Extending Remission Results:臨床第三相試験)において、更に好ましい結果が得られたことから、2005年には米国ならびにEUにおいて多発性骨髄腫患者の2次治療薬としてボルテゾミブが承認されました。同試験では、多発性骨髄腫の2次治療において、デキサメタゾン治療群に比べボルテゾミブ治療群では死亡者数が55%少ないことが示唆され、ボルテゾミブの優れた延命効果が証明されました。
ベルギーのプリ・ガリアン賞審査委員会の委員である、ルクセンブルグ中央病院のマリオ・ディカト教授は次のようにコメントしています。
「プリ・ガリアン賞は各年度における最も革新的な薬剤に授与されます。この賞は、患者の生命力強化や延命効果を実現する薬剤の発見に日夜努力する科学者の功績を評価し、表彰するものです。多発性骨髄腫は未だ治療法が確立されていない疾患ですが、ボルデゾミブは多発性骨髄腫患者に希望の光をもたらす初めての新しい治療法であり、ボルデゾミブの発見はこの賞にまさにふさわしいと言えます。」
ボルテゾミブの作用について
プロテアソームは、細胞周期を制御するタンパク質など多数のタンパク質を分解する酵素複合体です。プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブは、この過程を阻害することにより最終的に細胞死を誘導します。多くの場合、がん細胞におけるタンパク質代謝は大きく攪乱されており、その結果として腫瘍細胞は正常細胞に比べてプロテアソームの影響に対する感受性がより高くなります。
プロテアソームの役割は、アーロン・チカノーバー、アブラム・ハーシュコおよびアーウィン・ローズという3名の科学者の研究成果によって明らかにされました。以前はタンパク質分解よりもタンパク質生成に重点を置いていた科学的探究にとって、彼らの研究成果は意義深い出発点を記すこととなりました。プロテアソームがタンパク質代謝を制御する際の作用を解明したことにより、上記3名の科学者に対して2004年度ノーベル化学賞が授与されています。
ボルテゾミブ注(ベルケード®)は、現在世界50ヶ国において承認されています。承認済みの国には、米国や欧州の大部分の国々のほか、ラテンアメリカではアルゼンチン、東南アジアでは中国、韓国、シンガポールおよびタイなどが含まれます。
ベルケード®は、J&JPRDおよび米ミレニアムの二社が共同で開発し、販売はミレニアムが米国、ジョンソン・エンド・ジョンソングループのヤンセン・シラグおよびオーソ・バイオテックが欧州をはじめとした世界の他の国々を担当いたします。本邦では年内の承認申請を目指してヤンセンファーマが開発中です。
多発性骨髄腫について
多発性骨髄腫は2番目に多い血液がんであり、本邦では毎年3,000人を超える新たな症例が認められ、発病者者数は11,000人超と想定されています。多発性骨髄腫患者の5年超生存率はわずか30%であり、本邦では毎年3,000人を超える患者が同疾患により死亡しています。