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第四回「ポール・ヤンセン賞」選考結果のお知らせ

2004/10/06

去る9月30日、神戸市内で開催された「第14回日本臨床精神神経薬理学会(会長:神戸大学大学院医学系研究科精神神経科学分野、前田潔教授)」において、同学会賞である『平成16年度(第四回)ポール・ヤンセン賞』が選出されました。

 

ポール・ヤンセン賞は、抗精神病薬リスペリドン、同ハロペリドールといった優れた薬剤の合成を通じ、世界中の精神病患者に社会復帰への道を拓いたとされる、ベルギーの故ポール・ヤンセン博士(*1)の事跡にちなんだもので、臨床精神神経薬理学の研究奨励を通じて、精神障害の病因の解明、向精神薬の適正な使用、それによる精神障害者のQOL向上に寄与することを目的に設置されているものです。

 

同賞の選考対象は、第14回日本臨床精神神経薬理学会事務局に応募された一般演題であり、応募資格は同学会の会員のみとなります。当日の学会総会では、理事投票により選出された候補演題5題について発表者より口演発表があり、その後、理事を含む評議員による即日投票によって、演題名『ノルエピネフリントランスポータ遺伝子多型はミルナシプランの治療反応性を予測する』(秋田大学医学部精神科、吉田契造を中心とする共同研究チーム(*2)が第四回ポール・ヤンセン賞に採択されました。

受賞者には研究助成の他、2005年開催の海外学会への参加援助が行われます。

 

*1) ポール・ヤンセン博士(1926-2003)
博士は、1958年に精神疾患におけるスタンダード薬剤となるハロペリドールの合成に成功、同剤は統合失調症患者の社会復帰を可能にするという、精神医療における一大変革をもたらしました。さらに後年、博士指導のもと新世代の抗精神病薬リスパダール®(リスペリドン)が開発され、1993年の発売以来、内外で最も多く処方される新規抗精神病薬として定着すると共に、統合失調症治療の第一選択薬として今日の精神科医療を支え続けています。博士は惜しまれつつも昨年急逝しました。

 

*2) 受賞演題/受賞者:
『ノルエピネフリントランスポータ遺伝子多型はミルナシプランの治療反応性を予測する』

吉田 契造1、高橋 一志1、樋口 久1、鎌田 光宏1、伊藤 研一1、佐藤 和裕1、内藤 信吾1、清水 徹男1、伊藤 邦彦2、井上 和幸2、鈴木 敏夫2

1.秋田大学医学部精神科 2.秋田大学医学部付属病院薬剤部

 

【目的】 うつ病の薬物治療を効率よく行うためには、治療反応性予測因子をみつけだす必要がある。本研究の目的は、ノルエピネフリントランスポータ(NET)およびセロトニントランスポータ(5‐HTT)の遺伝子多型が、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のひとつであるミルナシプランの治療反応性におよぼす影響を解明することである。

 

【方法】 秋田大学医学部倫理委員会にて研究計画の承認を得た。患者に対しては研究の目的と内容を説明し、研究参加についての同意を得た。大うつ病性障害(DSM‐IV)と診断され、Montgomery and Asberg rating scale(MADRS)の得点が21点以上の患者96名が試験に導入された。ミルナシプランを1週目まで50mg/day、以降は100mg/dayの用量で6週間にわたり投与し、抑うつ症状の変化をMADRSを用いて評価した。PCR法を用いて遺伝子型(NET T-182C、NET G1287A、5-HTTLPR、5-HTTVNTR)を決定し、高速液体クロマトグラフィーを用いてミルナシプランの毛中濃度を測定した。

 

【結果】 80名の患者が試験を完了した。NET T-182C多型においては、responder群とnonresponder群との間で遺伝子型分布(p=0.03)および対立遺伝子頻度(p=0.03)の両者に有意差がみられ、T型対立遺伝子の存在が優れた抗うつ効果に関与していることが示された。NET G1287A多型においては、responder群とnonresponder群との間で遺伝子型分布および対立遺伝子頻度に有意差はみられなかった。しかし、MADRSスコアの経時変化には有意差がみられ、A/A遺伝子型患者では抗うつ効果の発現が遅れるが、最終的な治療効果は他の遺伝子型と同等であることが示された。これらの結果とは対照的に、5-HTTLPRおよび5-HTTVNTR多型は、最終的な治療反応性およびMADRSスコアの経時変化いずれに対しても有意な影響をおよぼさなかった。血中濃度と治療効果の間に有意な関連はみられなかった。

 

【結論】 本研究により、NET多型はミルナシプランの抗うつ効果予測因子となり、5-HTT多型は予測因子とならないことが示された。(Am J Psychiatry,in press)。